NEPAL PROJECT


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May 2015





ネパール視察レポート(5月31日~6月2日)
坂 茂


4月25日ネパールの首都カトマンズ近郊でマグニチュード7.8の地震が発生した。20年前の阪神・淡路大震災以来、世界各地で災害支援活動を続けてきた我々(NGOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)の実績により、どこかで大地震が発生すると必ず、知人や見ず知らずの方から支援を求めるメールが自然に入るようになったが、今回のネパール地震後は、そのような支援要請が今まで以上に世界中から多く寄せられた。例えば、東京在住のネパール人留学生、ネパールを愛する世界中の投資家、写真家、登山家、観光客そしてNGO関係者など。それにより、私にとって未知の国ネパールへの関心は高まり、すぐに支援活動の準備に取りかかった。

まずは情報収集のため、東京在住のネパール国立トリブバン大学の留学生達に集まっていただいた。そして彼らの手配で、毎回各国でやっているようにトリブバン大学の工学部長トリ・ラトナ・バジラチャリ先生に連絡を取り、日本からの支援物資の受託先になっていただき、我々が現地に入った際の学生とのワークショップをアレンジしていただいた。

これまで紙管を使った緊急用シェルターを開発してきた。1994年からのルワンダにおける国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)用には紙管とプラスチックのコネクター(図1)、2010年ハイチ地震では紙管と合板のコネクター(図2)を作った。しかしどこの国でも安く手軽に既製品の紙管が手に入るのに対し、プラスチックや合板のコネクターは製造に手間がかかる。そこで今回は初めてガムテープを使ったジョイントを試みた(図3)。一度日本で試作し、現地でネパール製紙管とガムテープを使い再度紙管シェルターを組み立てた(図4,5)。ワークショップ後の災害支援活動中心の講演会には、学生やネパールで働く世界中のNGO関係者500人以上が集まり、具体的で実践的な議論の場となった(図6)。

今回の視察時には、紙管シェルター組立と同時に、これまで共同で女川町の3階建仮設住宅を東日本大震災時に共同開発した(株)TSP太陽から、中古の運動会用テント130張を寄付していただき、現地へ送る手配をした。それらの空輸と我々の現地入りの航空券の支援をタイ、シンガポール、香港のクライアントを通してタイ航空、シンガポール航空、キャセイパシフィック航空に依頼した(こういう時日本の航空会社は動きが悪い)。運動会用テントは屋根だけなので、それらの周囲を塞ぐシートを、一般社団法人海外建設協会を通じて各ゼネコンから寄付していただくことにした(図7)。この協力は、1999年トルコ地震の際に行った方法(図8)で、その時の実績からすぐ対応してくださった。

今回のネパール滞在中には、学生による短期的なプロジェクトとして紙管シェルター建設ワークショップと、中長期的な復興住宅の建設計画を立案し協力してくれる地元の建築家、地元企業、そして日本政府の援助窓口となる日本大使館と打合せを行った。

更に、滞在中にカトマンズ郊外の被災した集落や建材市場を廻り、地元で手に入りやすい材料、伝統的構法やスタイル、そしてネパール被災地独自の問題を調査した。倒壊した建物のほとんどは焼成レンガと日干しレンガを幅50cm以上の厚い壁(図9)として積んだ単純な組積造である。被災者は、たとえ家が完全に倒壊していなくとも、地震体験のトラウマと余震を恐れ、屋外でテント生活をしている。彼らは二度と組積造の家には住みたくないと口を揃えて訴えてきた。そしてこの大量に山積みされた倒壊した家のレンガをどうやって、どこに撤去するのか?これが被災地の最大の問題である(図10)。一方、倒壊を免れた伝統的ネパール建築を見るとレンガの壁の中に填め込まれている木彫が施された窓の木枠が特徴的で美しい(図11)。そんなネパール独自の伝統的建築を見た後、郊外の製材所を訪れた。そこでは製材の傍ら、標準品として木製窓枠・扉枠を作っていた(図12)。それを見た時、ネパールの伝統的な窓枠と大量に放置されたレンガがひとつの工法のアイデアに結びついた。それはモジュール化した木枠3ft x 7ft(90cm x 210cm)を連続させ、長手枠同士を間柱のように釘で固定し、その枠の中に倒壊したレンガを積んで壁を作ったり、必要な窓や扉を付けていく工法である(図13)。この工法であれば、素早く素人にでも木枠で外壁フレームを作ることができ、屋根(とりあえず現地製紙管によるトラス小屋組を提案)を乗せ、木枠に仮のシートでも張れば住み始めることができる。そして住人が徐々に木枠の中にレンガを積んで自分で工事を完成させればいいのである。そこで木枠にレンガを積んだ試験体パネルを作り、耐力実験をトリブバン大学ですることとした。2階建てにする場合は1階の木枠内壁に必要なだけ合板を貼って追加の横力対策とする。まずはこの工法で、現地に実大試作棟を夏までに完成させる目標を立てた。

長期的住宅プロジェクトとしては、フィリピンで始めたローコストプレファブ住宅(NTH)の開発をネパールでも進める計画を国内外のインベスターと始める。これは東日本大地震以降、日本国内のプレファブ住宅メーカーが、次の震災時に十分な仮設住宅が供給できないという実情から、より性能の高いローコスト仮設住宅を開発する必要性により計画したプロジェクトである。発砲スチレンボードのパネル両面にグラスファイバーを塗り、モデュールパネルとする構造(図14~16)であり、その工場を発展途上国に作り、地元の雇用創出をしつつ現地の低所得者住宅を改善する。将来の地震の際には、仮設住宅供給策として日本などの近隣国に輸出する計画で、フィリピン工場では試作棟が完成した(図17)。この工場建設の計画をインドとネパールで検討している。

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