展示物としてのパリ仮設事務所
メッツ市(パリの東、ドイツ国境近く)に2007年完成予定のポンピドーセンター(CPM)の国際コンペ(本紙0401)に優勝し、パリ・ポンピドーセンターの館長、ブルーノ・ラシーン氏との最初のミーティングで、「海外の事務所としてパリに事務所を借りるに十分な設計料ではない。それ故に、もしポンピドーセンターのテラスを貸してくれれば、自分で仮設事務所を作るんですけど。」と、ほとんど冗談のつもりで話した。すると、「それはおもしろいかもしれない。少し考えさせてください。」と意外な返事が返ってきた。それから一週間、複雑で知られるフランスのアドミニストレーションとしては異例の早さで「是非やってください。」との答えが戻ってきた。ただその条件は次のようなものであった。@CPMの完成まで約3年間無償でテラスを使っていいが、残りは全て自費でやる。 A一般の美術館を訪れるビジターに、CPMがどのようにして設計されているか、ギャラリーからなるべく我々の事務所の中が見えるようにする。 BCPM完成後は、仮設事務所から出て、建物をポンピドーセンターに寄付する。
建設に当たって、建設可能な場所を3ヵ所(正面のプラザの片隅や、ブランクーシーのアトリエの庭、6階テラス)を案内してもらい、最もプライバシーが得られ、パリの絶景が楽しめる6階のレストラン脇の細長いテラスを選んだ。ただその時、セキュリティーが高いナショナルモニュメントの上に仮設といえ建築を建設するということがどれだけ困難であるか想像もしなかった。まずは、レンゾ・ピアノ氏をパリ事務所に訪ね、図面とCGの完成パースを見ていただき、彼の許可を取る必要があった。レンゾは、彼らもポンピドーセンターのコンペに勝ち、まずセーヌ川のボートの上に仮設事務所を作ったので、我々も仮設事務所を作ることに大賛成してくださった。ただ、CPMの場合、メッツ市とポンピドーセンターと二者の施主がいるので、一方だけに近づきすぎる(テラスに事務所があること。)と他者からいろいろクレームが付くので場所的にはテラスでないほうが・・・との意見もいただいた。事実彼の予言のとおり我々は二者の間に挟まれ、ポンピドーセンターの意見を聞きすぎるなとメッツ市から言われて苦労している。
構造設計は、日本でいつも「紙の建築」を担当していただいている手塚升氏に基本設計を依頼し、実施設計はポンピドーセンターを設計したピーター・ライスが設立した事務所RFRにお願いした。
建設は、慶応大学SFCの私の研究室として同じような「紙の建築」を建設した学生と、パリの地元の建築の学生を中心に夏のワークショップを編成し、全て学生の手で建設してもらった。
毎日パリの眺望を楽しみながらも、ギャラリーのビジターの目を気にしつつ、動物園状態の環境はなかなか刺激的である。皆さんがパリへこられたときはどうぞお立ち寄りください。ただ、我々は展示物の一部なので、下で入場券を買っていただく必要がありますが・・・。 |